2013年7月4日木曜日

足るを知る

昨年の秋にラダックを旅した時に感じたことを残しておこうと思う。

 


2012年9月

私はインドのジャンムーカシミール地方のラダックという場所を旅してきた。

 

この場所を選んだ理由はチベットよりチベットらしい場所と聞いたから

 

私は数年前からダライラマ法王に心惹かれている。

そして、“ダライラマに恋して” 著たかのてるこ という本にラダックを旅したことが書いてあったのだ。

人がやさしく穏やかで信心深く、住んでいる人々の幸福度が高い場所。

チベットよりチベットを感じることができる場所だと説明してあった。

気が遠くなるほどの青い空と今までみたことがないような岩山、その岩山に建つ真っ白で立派な僧院(ゴンパ)。

 

この景色をこの目で見たい、住んでいる人々の表情をこの目で見たい、標高3500メートルの町の空気をこの肌で感じたい!!!

思い立ったが吉日、旅の手配をした。

 

関西国際空港から飛びたち、香港で乗り継ぎ、インドのデリーに深夜に到着。

早朝の飛行機でレーの空港に着いた。

飛行機から降りたら標高3500メートル!!!

 

出発前からとにかく高山病には注意して下さいと言われていた。

いてから2、3日の間、運動はだめ。お昼寝もだめ。飲酒もだめ!

念のため高山病予防の薬も飲んだ。でも副作用が強すぎて一日で飲むのをやめた。

着いてからしばらくは朝・夕に手足のしびれを感じたが、注意した甲斐もあって高山病になることもなく過ごすことができた。

 

 

 

さてこのラダックという場所はインドの北部に位置するチベット文化圏で40年ほど前まで人々は自給自足の生活をしていたそうだ。

現在はレーという中心都市は商店やホテルが立ち並び、旅行者もたくさんみかけた。

特に欧米からトレッキングを楽しむためにきた旅行者が多かったように思う。

 

ホテルは清潔で大変過ごしやすかったが、町に供給されている電気は安定しておらず昼間と夜の10時以降は停電した。

お風呂のお湯は夕方6時から8時の2時間使うことができた。

 

電気もお湯も使いたいときに使いたい放題で生きてきた私は、なんと便利な国で生活してきたのかと感謝した。

一方で、電気の供給時間やお風呂の時間に合わせて一日の行動を組み立てることも楽しかった。どんな環境でもなじむことができるのだと知った

 

9日間の旅で何をしていたかといえば、現地で出会った旅友二人と現地ガイドさん、ドライバーさんの5人でゴンパ(僧院)を巡り、仏教壁画や仏像を見て回った。貴重な壁画をたくさんみせてもらった。16世紀、17世紀ごろに描かれたものもあった。

古くに描かれたものは劣化したものも多く、壁画職人さんが弟子たちとともに修復して描いているところを見ることもできた。

中にはドイツ人がやってきて壁画を修復したというものもあった

説明によると仏教画のルールを全く無視して配置がむちゃくちゃに描かれているらしい。ちゃっかり自分のサインまでいれてあった。

でも説明してくださった高僧の方、『今は滑稽だと言っているが、1000年後価値のあるものとして紹介されているかもしれませんよ』言っていた。

たしかに何がどこで価値のあるものになるかなんて誰にもわからないと思った。

 

ゴンパ巡り以外にしたことといえば、お散歩とお茶。

ジンジャーレモンティーとマサラティーは毎日飲んだ。

この地方でよく飲まれているらしいバター茶も試してみた。

バター茶はお茶とヤクバターと塩を混ぜた飲み物で、乾燥した気候で失われがちな脂肪分と塩分を効率的に補給することができ暖をとることもできるらしい。

私はのどを潤すサラッとした飲み物が好きなので、こってりしたバター茶は好みではなかった。

 

お散歩は川にかかっている吊り橋を渡ったり、村の集落を歩いたりした。

出会う人は気さくで良い表情だった。

顔のしわも年輪のように見えて積み重ねてきた人生が顔にでていた。

 

旅の中盤、アルチという場所で丘の上にあるツァツァプリゴンパに行った。

無人のゴンパで隣の人が鍵の管理をしているところだ

私たちが訪れたときはちょうど鍵を持っている人が羊を追いにでかけてしまって留守だったので、隣の家で待たせてもらうことになった。

待っている間にその家のおばあさんがチャンをごちそうしてくれた。

チャンとは大麦を発酵させて作ったラダックでよく飲まれているお酒だ。

 

チャンをちびちび飲みながらおばあさんとお話をしていたとき、

『あなたたちみんなきれいなお洋服を着て、立派なカメラを持って素敵ね』と言われた。そのとき私は『はい、ありがたいことに』と答えた。

今私のそばにあるもの全てが当たり前ではないと感じたからだ。

おばあさんの家は整理整頓され、大きな食器棚に素敵な食器が並び、家にあるもの全てを大事に使っている様子が伝わってきた。

見ていて心が温かくなった。


旅も終盤になると高地にもすっかりなれ、ちゃっかり夕食にはビールを飲んだ。

旅友とも一緒にいることが自然で、たくさん話をした。

彼女とした会話でとても心に残ったことがあるので最後に書いておこうと思う。

 

帰りの飛行機を待つデリーの空港で、以前に行った場所の話になった。

彼女は過去に2度チベットに行った話をしてくれた。

立ち寄ったお店でこっそりダライラマ法王の写真を見せられた話やチベットの現状を教えてくれた。

彼女は言った。

『でもねー、チベットの人も町も明るくて陽気よー』と。

 

その言葉に今回の旅の答えがあった。

 

チベットを感じたくてラダックに行ったけど、チベットはチベットでラダックはラダックなんだ。

 

チベットの人たちは今の環境の中で幸福に生きている。

心の自由は誰にも侵略されることはないのだ。

 

今ある環境でどれだけ幸福に生きることができるのか。

足るを知るということ。

 

それは現状に甘んじるということではない。

 

“今”に感謝して毎日を積み重ねていくことで、自分にとって幸福な人生を展開していくのだと思う。

 

 

 

 

 


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